ブックオーシャンは、大学教授などの学者・研究者の方にも多く利用いただいております。
私達は彼らへのヒアリングを行い「ブックーシャンを活用されるお客様像」について(限りなくノンフィクションに近い)お話を作り、Web上で配信をしてみました。そうしましたところ、先生方の反響がとても良く、様々な反応をいただきました。
そんな中、当社が配信したお話に反応を頂いたのが米倉誠一郎先生。
なんと米倉先生は当社スタッフの恩師であることが判明。早速「先生!ご無沙汰してます!」と連絡を取った次第。
米倉先生、「ブックオーシャンを使いたい!」とのこと。
せっかくなので先生のオフィスにお邪魔して、お預けのお手伝いがてら「先生と本」について話を聞いてみました!
米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう)さん
一橋大学 名誉教授
ソーシャル・イノベーション・スクール(CR-SIS)学長
世界元気塾塾長
『一橋ビジネスレビュー』編集委員長
米倉先生!学者・研究者だからこその「本との関わり方」についてぜひお聞かせください!
BookOcean米倉先生、本日はよろしくお願いします。「大学教授ならではの「本との関わり方」」についていろいろとお聞かせいただけたら嬉しいです!
さっそくですが、さすが研究室、本が沢山ありますね。これらの本は一体どういう由来の本なのですか?
米倉そうだね、もちろん多くはこれまでの研究に関連する本なのだけど、例えばこのあたりは著書、このあたりは小説。小説好きなんでね。心残りのある文庫本などはおいてる。小説はすごく好きだったんでたくさん持っていた。
ここの蔵書は(以前勤めていた)一橋大学からこの研究室に移るときに半分ぐらいに減らしたんだけどね。
それと、このあたりは献本とかだね。
BookOcean献本は結構あるものなのですか?
米倉献本は毎月来る。結構来る。本の管理が悪くて(散らかってしまって)ね、これは性格だね。
それにしても、
あの本はどこだったかなと思って探すと、学生が持っていってる可能性もある。結構大事な本を(笑)
BookOcean先生の持ってる蔵書を読みたい学生っているんでしょうね。
米倉どうだかなー(笑)
たしかに「この本いいぞ」と学生に勧める、古い本なんかは結構手にはいらないからね。
「先生、ちょっと借りていきまーす」ってそれっきり(笑)
BookOcean先生の蔵書、ブックオーシャンで学生に公開して、学生が借りるときは学生の家に送る、みたいなこともできますけどね。
そうしたら誰が借りたかちゃんとわかりますよ。
米倉いいねそれ!なるほどそういう使い方もできるんだ。
BookOceanそれにしても研究室の引っ越しとか、退官の時とかは大変そうですね。
他の先生の皆さんはどうされてるんですか?
米倉昔はほら、神保町界隈の業者さんが来て、整理がてら買ってくれたり処分してくれたりという感じだったんだけどね。
今はあんまりそういうことも少なくなってるみたいで。
図書館に寄贈というやりかたのもあるんだけど、図書館ももう満杯なんてことも多いみたい。
BookOcean退官される先生も全体では毎年結構な人数いらっしゃるでしょうしね。
ご年配の方も多いでしょうから。
米倉7年前(大学を移ったとき)に抱いた蔵書本を半分にしたでしょ。いや、大変だったよ。
いや、みんなどうしてるんだろうね。ほんとに。
自宅にも結構本があるし、他のオフィスにもある。
その本をどう管理するのかというのはちょっと大きな問題だね。
BookOceanそのあたりは、ブックオーシャンでぜひサポートさせていただけたらと思います!
ところで、先生はどういうタイミングで「本」と出会うものなのですか?
米倉もちろん必要な本はアマゾンなり研究室経由だが、「出会い」というとやっぱり図書館とか本屋とか。皆さんも経験あると思うけど、ときどき本が呼んだりするでしょう。「あいつ(本)、俺のこと呼んでるな」って思って、手にとって見ると「おぉ、結構いい本だな」と。デザインとかはあると思うけど、ぱっと見て開いた時に良い本に出会うことがある。これはきっと言葉にできない「暗黙知」なんだよね。
その意味で、(こういう本=知との出会いに関しては)アルファべティカルに並んでいるデジタルは駄目だなと思うね。
ただ、デジタルは「調べる」というところではもう、本当に楽になった。
デジタルはすごいんだけど、そうすると(研究や論文などとの出会いの)差はなくなっちゃうじゃん?
どこで差がつくのかなって言うと、さっき言った「呼んだ?」の感覚。
例えばそこに「蛇と十字架」っていう本があるんだけど、これは中谷さん(中谷巌先生)に言われたのもあるんだけど、「日本の日本たる所以(ゆえん)の中に蛇と十字架みたいな話があるんだ」っていうのがあって、(そういう考え方は)普通にサーチしたら絶対入ってこない。
まぁ、中谷さんからその話を聞いたのはゴルフ場でだったんだけども(笑)。
BookOceanなるほど、そんなひょんなきっかけから本と出会っていくんですね。
ちなみに、この中で先生の青春時代からずっとともにしている本はどんな本ですか?
米倉そうだね、本の思い入れって言うとまずはこれだね。
僕は大学院は「幕末社会論」をやってる佐々木潤之介先生のゼミだったので維新史研究のものが多い。その後、野中郁次郎先生と一緒に一橋に就職して共同研究などしたんだけど、ある日野中先生が僕の無知に驚き、「アメリカでも行ってこい」半ば冗談で言ってね。
僕はそれを真に受けて、「それはいい考えだな!」と思ったものの、その時僕が知ってるアメリカの先生は1人しかいなかった(笑)。
それがこのアルフレッドチャンドラー博士。
どうせなら「アルフレッドチャンドラー博士がいるハーバードに行きたい!」と身の程知らずにも考えたわけ。
だからちょっと遅い青春を共過ごしたのはチャンドラー博士の著作かな。(本を開きながら)ほらね、「誠一郎へ」って書いてるでしょ。
米倉「keep this all in your mind at your general exam」。博士課程の口頭諮問に備えてこの本全部覚えておけ、ってお茶目にサインしてくれた。
チャンドラー博士の初めての授業に行ったときに、先生がこんな感じで来るわけ。
(大量に本を抱えて)よいしょよいしょよいしょと。
それをどんとおいて、「これでいくぞ」と。
「あ、この大量の本、このセメスター(学期)で読むんだな」と思ったら、先生「来週まで」と。
え〜、3ヶ月1セメスターで読むんじゃなくて、来週!?
そんなのがずっと続くんだよ。
冗談抜きで、金曜日の夜だけなんだよね、息が抜けるの。土曜日になってくると「あぁ、もう読まなくちゃ。」
だから本当によくThank God It’s Friday(神様ありがとう、今日は金曜日!の意)、いわゆるTGIF。これがよくわかったね。
一応土日休みだけど土曜の午後くらいになると、気持ちが暗〜くなってくる。
また月曜が来て地獄の1週間が始まるのか、と思う日々だったな。
BookOcean一番活字を読まれたのはハーバード時代ですか?
米倉そうだねー。ハーバードの博士課程と日本の大学院生修士のときだな。
僕は「MBAとかPhDって役に立ちますか」ってよく聞かれるんだけどね。
MBAでもPhDでも、特にMBA教育の中身自体の多くは、すぐ陳腐化しちゃうと思う。
だけどアメリカPhD・MBAには違った価値があるかなって思うことが2つある。
一つは「あんな苦しいことができたんだから、俺にできないものはない」と思える自信。
日曜の夜から金曜の夕方まで、ほぼ寝ないで、勉強し続けて、金曜の夜から土曜の朝にかけて「あ〜・・」と一息ついて、土曜の午後ぐらいから暗い気持ちになって次の勉強に入っていくと。それが2年とか5年間続く。それは相当苦しいけど自信にはなる。
もう一つはやっぱり友達だと思う。特にMBAではケーススタディをディスカッションしながら一緒に学ぶ。この時の同じ釜のメシを食うという感覚。(辛い時期を一緒に乗り越えた)そのときの仲間はすごく大事だなと思う。
話を戻すと、チャンドラー先生の本のタイトルって、この「ストラテジー&ストラクチャー」とか「スケール&スコープ」とか味があると思わない。
組織のことをOrganizationとか言わなくてSとSで、Structureと韻を踏んでるのがいいじゃない。
米倉それで、のちに僕が書いた「The Japanese Iron and Steel Industry: 1850-1990」という本も、出版社にどうしても「Continuity and Discontinuity」とサブタイトルに入れてくれって頼んだの。
(師匠の)ストラテジー&ストラクチャーをなぞりたかったんだね(笑)。
米倉そんなこんなで、野中郁次郎先生と(一橋大学産業経営研究所に)入って一緒にやっていくことになるのだけど。
この「イノベーションと組織」っていう当時研究所所長だった今井 賢一先生監修の本なんだけど、これが僕たちが初めてイノベーションを全面に出した研究に携わるきっかけになったと思う。
あー、このピーターズ・ウォターマンの「エクセレント・カンパニー」、これには野中先生も僕も当時すごく衝撃を受けた。日本のことを経営学のフレームワークから「いいじゃん!」と後押ししてくれた本。
米倉この本が書かれたのは80年代。
70年代までは経営学っていうのはアメリカのもので、それを勉強するのが経営学だったけど、80年ぐらいになって日本の躍進に伴って日本の経営システムも結構すごいじゃんってなってきた。
日本企業の現場力や組織・製造工程における冗長性(redandancy)あるいは自社や自社製品に対する強烈な愛着、かつては「古臭い」とか「効率的じゃない」と言われた側面が、「いや、それが競争力の源泉であり企業の卓越性の根幹なんだ」と見直してくれた、しかもマッキンゼーの上級コンサルタントたちが。『エクセレント・カンパニー』は日本企業の優れた部分にお墨付きをもらった感じだったんだよね。
それで、この本をずっと大事に持っていたらね、突然(エクセレント・カンパニーを出版している)英治出版から電話かかってきて、
「これ翻訳し直すから、帯を書いてくれ」
っていうんで、帯と解説を書きました。
そのとき僕は「本に思いは通じる」そんなことをを思ったな(笑)
BookOcean人生を変えた本に関わることができるなんてすごく素敵ですね!
米倉そんなこんなで、それまでは意外に(僕は)真面目な研究者だったわけ。
この本棚に『岩波経営史講座』ってのがあるでしょ。全6巻かな。
第5巻に日本経営史って「高度経済成長を超えて」を有名な経営史家森川英正先生と一緒に書いている。意外に歴史研究者の片割れにいたわけよ。
ところが、1995年頃から日米の友達が「日本のことだけやってたら、間違うよ」なんて僕に言うわけ。
「何が間違うんだ。日本企業がアメリカ企業に負けるわけ無いじゃねぇか」って反論してたわけよ。
ところが、「ちょっとお前、シリコンバレー行った方がいいよ。」なんて多くの人たちが言うし、何やらすごいことが起こっているらしいという噂も入ってくる。そこでシリコンバレーに行ったのが1996年。
米倉もう頭をバットでぶん殴られた衝撃だった。
シリコンバレーで起こっているIT革命とか起業のエコシステムとか、自由なコーポレート・カルチャーとか、そういう話に、成功のルールが変わったと実感しました。
そこからグーっと「ベンチャーおじさん」になったわけよ(笑)。
ダイヤモンドから『企業家の条件』、講談社から『ネオIT革命』さらにサイバーエージェントの藤田くんと『起業ってこうなんだドットコム』とか、松井証券の松井さんと『カネよりもダだ』を共著したりした。
米倉もちろん、歴史家として岩波新書『経営革命の構造』も書いてはいる。イギリスで起こった産業革命、アメリカの経営者革命、日本の集団資本主義や現場主義、そしてシリコンバレーで起こっている革命を同列で書いてみたいと思ったんだ。ただ、それから20年は、「日本にベンチャーやアントレプレナーシップが必要」だと叫び続けてきた。
米倉そんな流れの中で、2017年に一橋大学を定年退官するにあたって、もう一度歴史家として日本のイノベーターたちの見直しを書いておこうと思ったのが、『イノベーターたちの日本史:近代日本における創造的対応』。
米倉そしたらその年の「ダイヤモンドが選ぶベスト経済書100冊」の中の第5位に入って嬉しかった。なぜなら「経済書」と思って執筆していなかったから。
これは中国語にも翻訳されたんで、13億人の1%に売れたら大変なことだぞ!なんて思ったりもしたけど、そんな話は聞かない本だね(笑)。
BookOcean米倉先生の人生の起点に人と本との出会いがあるんですね。
米倉そういった意味だと、人との出会いは重要だった。2009年アカデミーヒルズで、グラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス博士と対談をする機会。
米倉ユヌス博士は2006年にノーベル平和賞をもらっているんだけど、2009年の対談では、本当に腰が抜けるって経験をした。
シリコンバレーと同じような衝撃だった。
「そうなんだ!ビジネスの力で貧困は解決できるのだ!」と。
この本(ムハマド・ユヌス自伝)、はじめはフランスで出版されたらしいんだが、「貧困を博物館に送ろうぜ」っていうタイトルだった。
なんで博物館とかっていうと、もうそんなものが世の中からなくなっちゃって博物館に行かないと、貧困っていうものがわからない、そんな世界にしようという思いを込めたそうだ。
いやこれは本当にすごいなと思った。対談直後に、ユヌス先生に「先生、学生100人、100人連れて行きますから」と思わず口走るほどだった。
結局、約25人4回にわたってバングラデシュに連れていったんだ。
その後、僕もソーシャルイノベーションスクールを作ったんだけども、やっぱりこの出会いがなかったら、僕は今ソーシャルイノベーションの方には行っていないと思う。
BookOceanそんなきっかけがあったんですね。
話を聞いていてなんとなく感じたのですが、米倉先生の「琴線」というのは、もしかしてああいうところ(シド・ビシャスの写真、ビートルズの写真など)と繋がってきたりしてますか?
米倉まぁ、ロックですよね(笑)
やっぱりそれは自分の中では、ある意味反体制っていうか、特に平和とか民主主義とか、その辺だけは譲れないと思っている。
権威の中で生きるよりは、例えば「たった一人でも会社を創ろう、1mmでもいいから社会に役だとう」というようなことは、すごく大事だなと思っています。
あ、そうそう。その話でいうと、「The Visible Hand」っていうこれ。
米倉チャンドラー博士がピューリッツァ賞を取った本なんだけど。これをね、日本の先生たちは「経営者の時代」って訳したわけ。
で、それは確かに間違いではないんだよ、この副題に「The Managerial Revolution in American Business」って書いてあるから。
(直訳すると)「アメリカの経営における経営者たちの革命」。
なんだけど、これはねチャンドラー先生のものすごいチャレンジを伝えきれていない。
これは、アダム・スミスのinvisible hand(神の「見えざる手」)に向かっての挑戦状という意味なんだよね。
要するにアダム・スミスの主張は「マーケット(市場原理)が全てをコーディネートしていく」というもの。
しかし、チャンドラー博士はアメリカの「Managerial Revolution」で大事だったのは、要するに「経営者の見える手」なんだ、と。
なんでこんなタイトルわざわざつけたんだろうって。わかった人は「これ、インビジブルハンドに対するあれだよな」と。
アメリカのビジネスを発達させたのはマーケットメカニズムじゃないんだっていう、ある種(その当時の権威に対する)すごいチャレンジ。
「経営者の時代」って訳は間違いではないんだけど、その彼の、チャレンジする気概がうまく訳されていなくて残念。
僕はチャンドラー博士のこういうチャレンジ精神がすごい好きなんですね。
ということでよろしいでしょうか?
BookOceanありがとうございます!
★ブックオーシャンより★
「俺、本読むのが嫌いなんだよ」
なんて最初は仰っていた米倉先生。
お話を伺うと、やはり本と人に対する愛と感謝が随所ににじみ出てきて「先生、実は本大好きじゃないすか!」と思わず突っ込んでしまいそうになりました(笑)
先生の人生のストーリーを本を交えて伺うことで、先生の論文や出版物が、人生の苦悩や驚きといった極めて人間的な感情が反映されているんだということがわかり「いやー、これ最初に聞いてから授業受けたら大学時代、もっと真面目に授業出たのになぁ」なんて思ったりしました。
非常に知的好奇心をくすぐられる楽しい時間でした!
米倉先生、どうもありがとうございました!
※本はブックオーシャンで大事に預からせていただきます!
(ブックオーシャン運営事務局)
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